日本鋼管不動産株式会社殿

富士見坂眺望保全のための要望書

日暮里富士見坂は23区内の富士見坂のうち、唯一地上から富士山が眺望できる最後に残った貴重な場所です。

富士山はいうまでもなく、江戸時代よりその眺めが庶民に親しまれ、葛飾北斎や安藤広重の江戸名所絵図にも富士山がいくつも描かれているところです。昭和40年頃までは23区内各所から富士山を眺望することができましたが、次々と地上から富士山の眺められる場所が消滅し、とうとう江戸市内に相当する範囲の富士見坂から、そしておそらくは地上から富士山が眺望できる場所として、日暮里富士見坂が最後に残った場所になってしまいました。

富士見坂につきましては、東京都の景観マスタープランにおいても富士山の眺望が位置付けられており、また、富士山の山頂に夕日の沈む富士見坂からの眺望が、平成6年に東京都の都市景観コンテストで景観の重要な視点として特別賞を受賞しております。荒川区でも区民の貴重な財産としてこの坂の整備を行い、富士山を眺望できる坂として永く後世に伝えようと都市計画マスタープランに位置付け、地元住民の代表が東京都に要請を行うべく荒川区議会に陳情書を提出しております。

しかし現在の法制度のもとで、こうした貴重な都民の眺望資産を法的に保全する手立ては存在していません。最後に残された貴重な眺望を守っていくには、都民、行政、民間事業者すべての良識ある判断に頼らざるを得ない状況です。我々が本要望書を御社へ提出するのは、以上のような事情のもとでやむを得ない手段であることを御拝察下さい。

富士見坂の眺望阻害要因については、坂の上から富士山に向かって線を引くと、高容積率が指定されたいくつかの沿道部分が考えられます。不忍通り、本郷通り、白山通りおよび本郷通りに交わる都道です。このうち不忍通りは2〜3宅地巾分、本郷通りと都道のおおよそ5〜6宅地巾分が7〜8階以下で建設され、白山通りのおおよそ6〜7宅地巾分が12階以下で建設されれば、丹沢連山から上に聳える富士山の姿は、理想的に保全されることが研究の結果明らかにされています。少なくとも、本郷通りで御社が進めている建築計画は、後出の景観シミュレーション画像から判断すると、10階以下にすれぱ富士山の稜線が見える眺望を確保することが可能と考えられます。このようなことから今後、文京区では景観条例の施行とともに区の指導で富士山眺望保全の検討をしていく予定となっています。そのためにも今回の御社の建築計画につきましては、現在ある富士山眺望をぜひとも保全して、御社が眺望保全の先駆者になられることが望まれます。

もとより御社の開発事業は、企業として当然の行為であり、指定容積率を最大限に利用することも同様と考えます。しかし、その結果が御社の想像していなかった23区内唯一残った富士山眺望の阻害を起こすことになると、これは一企業の問題のみならず、より広い見地からの検討が必要になったと判断されます。したがって、富士見坂の眺望について話し合いの場を持つことが必要ではないかと考えられます。

マンション事業も変革期にあって、単に箱物を供給するだけでなく、地域に根付いてさまざまなサービスを提供することが求められつつあります。そのためにも、地域との信頼関係に立って、地元の要望が聞こえやすい環境づくりや、情報交換機能の拡大を図ることの重要性は増大するばかりと考えられます。このように考えるとき、容積を最大限使うよりも、日常的に築きあげた信頼関係に立ったサービス供給が御社に利益をもたらすと同時に、地元に貢献し、社会の需要に応えて感謝される企業として繁栄する道ではないかと考えられます。

以上のような事情を御賢察のうえ、計画案の再考を切にお願い申し上げます。この要望書についての御返答につきましては、早急に日暮里富士見坂を守る会宛てに頂きたく、よろしく御対応のほど、重ねてお願いします。

平成12年1月14日

日暮里富士見坂を守る会


註 原文は縦書きです。

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