近代以降の都市開発の結果、私達は多くのかけがえのない風景を失ってきた。

東京都の景観条例が公布・施行されたのは1997年12月である。行政がようやく景観に取り組み始めたことのあらわれといえよう。この条例に基づいて,1999年4月,6月,10月には第1,2,3回の東京都選定歴史的建造物の選定がなされ,14,8,12件の歴史的建造物が選定され、その保全への配慮が始まっている。

日暮里富士見坂の保全は、建物でなく風景の保全である。いまや、山手線内部にあって、自然の地形の上に立って富士山が眺められるおそらくは唯一の場所となったこの地の風景を残そうということである。風景の保全も当然に景観条例の範疇に属する。景観を考えるとき、建物の保全だけでは不十分であるのは当然であろう。

富士見坂保全は、一個の建物およびその周辺の保存よりはスケールの大きな取り組みを必要とするが、実現可能なスケールであると私達は考えている。 すなわち、富士見坂から富士山までは 100 km あるものの、必要なのは富士山への眺望軸(ヴィスタ・ライン)が通過する細長い扇状の地域の高さ制限であるが、

富士見坂からのヴィスタ・ラインの範囲(坂から1.5〜4.5Km部分)

当面に問題となるのは坂から2Km以内の、不忍通りの2〜3宅地幅、 本郷通りの5〜6宅地幅、白山通りの6〜7宅地幅の高さ制限である。 さしあたりこれだけ範囲の高さ規制が実現すれば、富士見坂は保全されるのである。

富士見坂からのヴィスタ・ラインの範囲(坂から約2Kmまで)

「昔、ここに名所、史跡ありき」という碑だけが虚しく立ち並ぶ東京にしないために、今こそ、行政・企業・都民が一体となって、真剣に景観と取り組むべき時が来ている。


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